サイレンと犀 岡野大嗣
岡野大嗣さんの歌集、「サイレンと犀」についての感想。
『結局、忘れたくない、忘れられないものしか残らないんだと思う。』
あとがきからの引用ですが、忘れたくない、忘れられないものを目に見える形で残してみようかなとブログ開設してみました。
気に入った歌を引きながら、感想を述べます。
えっ、七時なのにこんなに明るいの? うん、と七時が答えれば夏
個人的に夏が一番好きな季節なのですが、まだ明るいなあと思って時計を見て七時だった時が一番夏を感じますよね。なんとなく得したようで、気分がよくなります。
降りぎわに「じゃあ」と握った手のかたち合えば二人の「またね」は祈り
次はいつ会えるかわからないけど、その時まで元気でいようねと約束をしているような。そんな風に縛りつけてもらわないと生きていけないから、祈るのでしょう。
かなしみを遠くはなれて見つめたら意外といける光景だった
展望台から街を見下ろすみたいに、過去を振り返ってみたらそんなこともあったな、あの時はしんどかったな、って思える人は幸せ、よかったな。
もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい
この歌で岡野大嗣さんを知って、歌集を買いました。
すごく優しくて強い歌で、死にたいとは言っているけど、落ち着いたらまた頑張りたいという宣言のようにも見えて、なんだか励まされます。
抜けるほど青い空って絶望と希望を足して2で割った色?
きっと希望だけじゃなくて、半分絶望も混じってるから天気のいい日はなんだか不安になるのだな、と納得させられます。表があれば裏もあるんだ。
でも日によってはなんだかいい気分になるので、その時は希望がちょっと多いのかな、そうだといいな。
脳みそがあってよかった電源がなくても好きな曲を鳴らせる
そうだとも、脳みそは好きな曲を鳴らすためだけに存在するのだ。
グレゴール・ザムザは蟲になれたのに僕には同じ朝ばかり来る
ザムザのように変身したい朝ばかり、でも蟲にはなりたくないかなあ。ゴジラになって石原さとみにガッジーラって言われたい。
ここじゃない何処かへ行けばここじゃない何処かがここになるだけだろう
これが一番残酷で間違いのない歌。いつまでも隣の芝は青くて草生える。
けっこう前だけど、百万円と苦虫女って映画ありましたよね、なんとなく思い出しました。
まだまだ気に入った歌はあるけど、今日はここまで。
暗いのばかりだけど、あったかくて優しい歌もたくさん詠んでる人なので、お気に召したら是非。
- 作者: 岡野大嗣
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- 発売日: 2014/12/15
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